RNAはなぜ存在しているのか?RNAの構造、機能を詳しく解説!

遺伝学

はじめに

生物の主要構成要素であるタンパク質は、DNAから直接合成されるのではなく、RNAが中間体として使われます。DNAからRNA、RNAからタンパク質という順番で遺伝情報が伝わっていくことをセントラルドグマと言いますが、この流れは有名ですよね。

しかしなぜタンパク質合成はRNAを介しているのでしょうか?生命の設計図であるDNAから直接、生理機能を持ったタンパク質が合成されても良い気がしませんか?

本記事ではRNAの構造、機能だけでなく、上述の疑問についても迫っていきます!

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※DNAの知識について不安のある方は、以下の記事を読んでから本記事をお読みください。

DNAとRNAの構造の違い

RNAの構造を確認する前に、DNAの構造を確認しておきましょう。DNAは4種類のヌクレオチドから構成されています(図1)。糖+塩基で構成されるものをヌクレオシドと言い、ヌクレオシドにリン酸が結合したものをヌクレオチドと言います。DNAに含まれる糖はデオキシリボースと言います。図1中のヌクレオチドは3個のリン酸基が結合しているので、デオキシリボヌクレオチド三リン酸と言います。

続いてRNAの構造を確認していきましょう。RNAの構造はDNAと非常によく似ています。まず、RNAを構成する糖であるリボースの2’位を確認してください(図2)。DNAは-Hですが、RNAは-OHとなっており、DNAには酸素原子がないことがわかります。「デ」は脱や非を意味し、「オキシ」は酸素を意味しています。つまり、DNAの糖のデオキシリボースという名称は、「リボースから酸素がなくなっている」ということを意味しています。デオキシリボースはリボースから合成されます。

また、RNAはT(チミン)の代わりにU(ウラシル)が使われています。UはTの5位のメチル基(-CH3)がなくなった構造をしているだけで非常に良く似ていることがわかります。このメチル基は塩基対形成には関係ない部分なので、Tと同様にUもAと2本の水素結合で塩基対を形成します。

図2中のヌクレオチドはリボヌクレオチド三リン酸と言います。アデニン、シトシン、グアニン、ウラシルがくっついたリボヌクレオチド三リン酸をそれぞれ、アデノシン三リン酸(ATP)、シチジン三リン酸(CTP)、グアノシン三リン酸(GTP)、ウリジン三リン酸(UTP)とも言われます。ATPは生体内でエネルギー通貨として使われています。

DNAとRNAの和名はそれぞれ、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid; DNA)、リボ核酸(ribonucleic acid; RNA)と言います。ただ「核酸」と言う時は、DNAとRNAの両方を指しています。

RNAの種類

DNAからRNAが作られることを転写といい、RNAからタンパク質が作られることを翻訳と言います。このようにタンパク質合成の中間体として機能しているRNAのことを、メッセンジャーRNA(messenger RNA; mRNA)と言います。mRNAをご存じの方は多いと思います。

ここで重要なことは、RNAはmRNAだけではなく、他にもたくさんの種類があるということです。mRNA以外のRNA、はタンパク質に翻訳されず、RNA分子のままさまざまな機能を果たします。このようにタンパク質に翻訳されないRNAを総称してノンコーディングRNA(noncoding RNA; ncRNA)と言います。例えば、リボソームRNA(ribosomal RNA; rRNA)、トランスファーRNA(transfer RNA; tRNA)、低分子干渉RNA(small interfering RNA; siRNA)などがあります。ncRNAも生体内で非常に重要な役割を担っています。

遺伝子とはタンパク質の設計図が書いてあるDNA領域を指していますが、タンパク質に翻訳されないncRNAをコードしているDNA領域も遺伝子と呼ばれています。

mRNAは新型コロナウイルスのワクチンで使われていますよね。このmRNAワクチンにはウイルスのタンパク質がコードされており、体の中で翻訳されてウイルスタンパクの一部が作られます。このウイルスタンパクに対して免疫応答が開始されます。

RNAの機能

DNAは二重らせん構造をしていますが、RNAはDNAと異なり一本鎖構造をしています。一本鎖のRNAは自由に折れ曲がって、同じRNA分子の中で塩基対を形成できるため、一部のRNA分子は複雑に折りたたまれた構造をしています(図3)。特徴的な三次元構造は図3中のように、hairpn loopなどの名前が付けられています。

タンパク質は適切に折りたたまれて複雑な3次元構造をとることで、さまざまな化学反応を触媒することができるのですが、RNAもタンパク質と同様に適切に折りたたまれることで化学反応を触媒することができます。この触媒活性をもつRNAのことをリボザイムと言います。DNAには触媒機能がないので、RNAの触媒機能はDNAとの大きな違いです。リボザイムには、タンパク合成を触媒するrRNA、mRNAの分解を触媒するsiRNA、mRNAのスプライシングを触媒するsnRNAなどがあります。現在のリボザイムは、リボザイム単体として働いているのではなく、タンパク質と複合体を形成し、協同して働いています(図4左)。

また、触媒機能を持たず、構造的な役割をしているncRNAも多くあります。

なぜRNAが存在しているのか?

さて、これまでにRNAの遺伝情報を伝える機能と、生体内の化学反応を触媒する機能を紹介してきました。遺伝情報を保管する役割と、酵素としての役割の両面を持ったすごい分子であることがお分かりいただけたかと思います。

しかし、なぜRNAが存在しているのでしょうか?遺伝情報の保管はDNAに任せ、触媒機能はタンパク質に任せたほうがいいと思いませんか?

なぜなら、DNAはRNAよりも安定性が高く、遺伝情報の保存にはDNAの方が適していいるからです。また、4種類のヌクレオチドで構成されているRNAよりも、20種類のアミノ酸で構成されているタンパク質の方がより複雑な構造体をとることができ、酵素として働くのはタンパク質の方が優れていると言えるからです。

この疑問の答えは「進化」に隠されています。生命の起源のおいて、最初期の生命体は遺伝情報をRNAに保管に保管していたと考えられています。この考え方をRNAワールドと言います。進化の過程で、より複雑な構造であるタンパク質は多彩な機能を持つことができるので、RNAの触媒機能はだんだんと他タンパク質が担うようになっていきました。その後RNAから、より安定性の高いDNAが合成され、RNAの遺伝情報保存機能はDNAが担うようになってきました。現在でもRNAが遺伝情報を伝えたり、化学反応を触媒しているのは、進化の名残だと考えられます。

ウイルスは生物ではありませんが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)など一部のウイルスはRNAを遺伝情報として使っています。

まとめ

  • 核酸はデオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸の2種類がある。
  • DNAとRNAの違いは糖の種類(デオキシリボースまたはリボース)と、塩基の種類(AまたはU)の2つ。
  • DNAは二重らせん構造をしているが、RNAは一本鎖構造で、一部のRNA分子は折りたたまれて複雑な3次元構造をしている。
  • 遺伝子から転写されるRNAをmRNAという。
  • タンパク質に翻訳されないRNAもあり、ノンコーディングRNA(ncRNA)という。
  • 複雑に折りたたまれたRNAは酵素のように働き、このようなRNA分子のことをリボザイムという。
  • DNAやタンパク質を持たない最初期の生命体は、遺伝情報の保持と化学反応の触媒にRNAを用いていた。
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