染色体はDNA複製の度に短くなる!?岡崎フラグメントの問題点とは?

遺伝学

はじめに

今回は岡崎フラグメントの問題点について解説していきます。DNAポリメラーゼはその正確性を維持するために、5’から3’方向へしかDNAを合成できません。そのため、ラギング鎖では短いDNA断片である岡崎フラグメントをこまめに作ってDNA合成を進めていきます。岡崎フラグメントによるDNA複製機構は、DNAポリメラーゼが高い精度を発揮することのできる、とても合理的なメカニズムと言えます。

しかし、岡崎フラグメントによるDNA合成はDNA末端まで合成できないという問題があります。これでは細胞分裂の度に染色体は短くなってしまいます。大事なDNAが削れていくので、これは一大事です。細胞はどのようにこの問題に対処しているのでしょうか?

ちなみに、細菌のDNAは環状になっており、このような問題は発生しません。

この記事のレベル

【難易度】★★★☆☆

【重要度】★★★★★

※岡崎フラグメントの詳細な解説は以下の記事をご覧ください。

DNA複製たびに染色体は短くなる

リーディング鎖では、一度プライマーが作られてDNA合成が開始されれば、そのまま末端まで合成が進みます(図1)。

一方で、これまでみてきたように、ラギング鎖では岡崎フラグメントと呼ばれる短いDNA断片を繋げてDNAを合成していきます(図2上段)。DNAポリメラーゼはDNAの3’末端の-OH基にしか新しいヌクレオチドを付加することができないので、岡崎フラグメントの作製には毎回DNAプライマーゼによるプライマーが必須です。しかし、このプライマーはRNAでできているので、プライマーを分解してDNAに置き換える必要があります(図2中段)。このとき、染色体の中ほどに存在する一本鎖DNA部分は、前の岡崎フラグメントの3’-OH末端があるので、ポリメラーゼがDNAを合成することができます(図2下段)。しかし、DNA末端はプライマーが除かれた後は3’-OH基がないので、ポリメラーゼはDNAを合成することができません。つまり、ラギング鎖は末端までDNAが合成できず、一本鎖DNAが突出したような構造になります。こうして、ラギング鎖はDNA複製の度に染色体が短くなっていきます。

実際にほとんどの細胞は、細胞分裂の度に染色体が短くなっていきます。ヒトの体細胞は約50回ほど細胞分裂した後にやがて死んでいきます。これを細胞老化と言います。老化にはさまざまな因子が関連していますが、染色体が短くなることは細胞老化の原因の一つであるとされています。この老化機構は古い細胞を取り除く意味があると考えられます。いつまでも古い細胞が生き延びていると、その細胞はDNA変異に起因するがん化の可能性が高まります。つまり、細胞ががん化する前に細胞の寿命が来るような仕組みでがんを防いでいるわけです。

がん細胞には、次項で解説するテロメラーゼ活性を高発現して細胞老化による細胞増殖停止を回避しているものが多く存在します。

DNA末端を伸長するDNAテロメラーゼ

前項では、染色体は細胞分裂の度に短くなり、最終的に分裂が停止してしまうことを学びました。しかし、骨髄で白血球を作っているる造血幹細胞や、小腸内壁の細胞を供給する幹細胞などは、どんどん細胞分裂をして新しい細胞を供給する必要があります。幹細胞が、たかが50回分裂して死んでしまっては体を構成する細胞はどんどん減ってしまいます。ではこれらの盛んに増殖する細胞は、「複製時にDNA末端が短くなる問題」をどのように解決しているのでしょうか?

この問題はテロメラーゼと呼ばれるDNA末端を伸長する酵素が解決します。テロメアーゼは染色体末端の特殊な繰り返し配列(ヒトの場合はTTAGGGのリピート)を認識し、DNAの3’突出末端を5’から3’方向に伸長してラギング鎖を末端まで複製できるようにします(図3)。テロメラーゼがあっても最終的に3’突出末端は残ってしまいますが、DNA末端が短くなるのを回避できていることが図からわかると思います。また、染色末端の特殊な配列のテロメアと呼びます。 テロメアは染色体末端を分解酵素からの作用を防いだり、他のDNAとくっついてしまうのを防いだりと、DNA末端を保護するための役割もあります。

この「テロメラーゼによるDNA末端複製機構」の解明により、2009年に米カリフォルニア大学 エリザベス・H・ブラックバーン(Elizabeth Helen Blackburn)教授、ジョンズ・ホプキンス大学 キャロル・W・グライダー(Carol W. Greider)教授、ジャック・W・ショスタク(Jack W. Szostak)教授の3氏がノーベル医学生理学賞を受賞しています。ノーベル賞が贈られるほどですから、とても重要な生命現象であることがわかりますね。

まとめ

  • ラギング鎖はDNA末端まで複製することができないので、細胞分裂の度に染色体は短くなる。
  • テロメアが短くなることで細胞老化が引き起こされる。染色体が短くなった細胞は、細胞ががん化する前に死ぬことで、がんを防いている。
  • 幹細胞ではテロメラーゼの発現が強く、DNA末端を修復することができる。
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