RNAスプライシング、5’キャップ、ポリA、mRNAワクチンの化学修飾など、RNAの修飾について詳しく解説!

遺伝学

はじめに

mRNAは転写された後様々な修飾を受けます。特に5’キャップRNAスプライシング3’ ポリアデニル化の3つの転写後修飾は有名であり、重要です。今回はこの3つの修飾機構だけでなく、非翻訳RNAの転写後修飾や、新型コロナウイルスのmRNAワクチンに使われているRNA修飾の技術についても解説していきます!

最新のトピックを含みますので、面白く読んでいただけると思います!

この記事のレベル

【難易度】★★★☆☆

【重要度】★★★★☆

※RNAの構造、機能については以下の記事で詳しく解説しています。

※RNAの転写機構については以下の記事で詳しく解説しています。

RNAが受ける転写後修飾

5’ キャップ

転写されたmRNAが最初に受ける修飾は5’ キャップです。5’ キャップとは、図1に示したようにmRNAの5’末端に7-メチルグアノシンが付加されることを言います。この5’ キャップ形成には、グアニル酸転移酵素などの転写後修飾因子が行います。5’ キャップはmRNAの核外への輸送を助けたり、RNA分解酵素から守ったりする機能があります。

RNAスプライシング

あるタンパク質が作られる時、mRNAの配列情報全てが使われる訳ではありません。すなわち、mRNAの塩基配列中にはタンパク質に翻訳されない不要な配列が含まれているということです。成熟したmRNAを作るためにはこの不要な配列を取り除かなければなりません。不要なRNA配列を切り出し、成熟したmRNAが作られる過程をRNAスプライシングと言います。このRNAスプライシングで切り取られるRNA配列をイントロン、切り取られずタンパク質に翻訳されるRNA配列をエキソンと言います。RNAスプライシング後はエキソンのみでできた成熟なmRNAとなります(図2)。

不要な塩基配列を除くRNAスプライシングという現象は、無駄な仕組みだと感じた読者の方もおられると思います。なぜRNAスプライシングが必要なのでしょうか?

その理由は、RNAスプライシングにより合成できるタンパク質の種類が増えるからと考えられています。

図2の例では全てのエクソンが使われてmRNAができる過程を描きましたが、どの部分のエクソンが使われるかは、細胞種や時期などによって変わります(図3)。

図3では、RNAスプライシングを受ける前のmRNAのエクソンに1、2、3、、、と順番に番号を振っています。例1の成熟なmRNAは1-3-4というようにエクソンがつながっていますが、その下の例2では、1-6-7-9-10になっています(図3)。このようにエキソンの組み合わせの違いで一つのmRNAから異なる種類のmRNAを作り出すことができます。すなわち、一つのmRNAから複数種のタンパク質を合成することができます。このように特定のエキソンだけを使って、複数のmRNAが作られる過程を選択的スプライシングと言います。

RNAスプライシングは特に有名な修飾なので、その分子生物学的なメカニズムについてもう少し詳しく解説します。

RNAスプライシングの位置認識とRNAスプライシング反応の触媒はsnRNA(核内低分子RNA, small nuclear RNA)が担っています。snRNAはタンパク質と複合体を形成しており、snRNAとタンパク質の複合体はsnRNP(核内低分子リボ核タンパク質, small nuclear ribonucleoprotein)と言います。このsnRNPがより集まってRNAスプライシングを遂行するのですが、この構造体をスプライソソームと言います(図4)。

図4ではスプライシングに関与する多くのタンパク質を省略して書いていますが、本来は数百のタンパク質がスプライス部位に集合してスプライソソームを形成しています。スプライソソームではイントロン中の特定のAがの5’ スプライス部位に結合し、輪を作るようにイントロンが取り除かれます(図4)。そしてエキソン同士がつなぎ合わされてRNAスプライシング完了です。

イントロンが取り除かれてエキソン同士がつなぎ合わされる部位をスプライス部位と言います。

イントロンを示す塩基配列は特定の決まったものはありませんが、イントロンの始まりのGUと終わりのAGは共通しています。

3’ ポリアデニル化

RNAポリメラーゼが遺伝子を最後まで転写すると、RNAを切断する酵素がmRNAの末端に集まり、mRNAをRNAポリメラーゼから切り離します(図5)。

ちなみに、遺伝子の転写後もしばらくRNAポリメラーゼはDNA鎖を進み、RNAを合成しますが、そのうちDNA鎖から離れてRNA合成が止まります。遺伝子ではない領域から合成されたRNAは5’ キャップがなく、不完全なRNAであると判断されてすぐにRNA分解酵素によって分解されます。

mRNAがRNAポリメラーゼから切り離されると、ポリAポリメラーゼという酵素がmRNAの3’末端に約200個のAを付加していきます。このAが約200個つながった構造をポリA(ポリは多数を意味する接頭語)といい、ポリAが付加されることをポリアデニル化と言います。

転写とRNA修飾

これまで、3つのRNA修飾を個別に解説してきたので、mRNAが出来上がった後にそれぞれの修飾を受けるような印象を受けると思います。実はこれらのRNA修飾はmRNAの転写中に始まります。すなわち、mRNAの転写が完了する前に5’ キャップの形成やRNAスプライシング等が開始します。

この転写と修飾の協同的な動きには、mRNAの転写を行うRNAポリメラーゼⅡのC末端ドメイン(CTD; C-terminal domain)が重要な役目を果たします。CTDは名前の通りRNAポリメラーゼⅡのC末端の領域で、RNAポリメラーゼⅡから尻尾のように突き出た構造をしています(図6、図5ではCTDを省略して描いていることに注意)。 CTDはRNAポリメラーゼⅡに特徴的な構造で、RNAポリメラーゼⅠ、Ⅲにはありません。

真核生物のRNAポリメラーゼはRNAポリメラーゼⅠ、Ⅱ、Ⅲの3種類あり、タンパク質をコードする遺伝子や一部の非翻訳RNAはRNAポリメラーゼⅡによって転写されます。rRNAなどの他の一部の非翻訳RNAはRNAポリメラーゼⅠまたはⅢによって転写されます。

CTDには転写後修飾因子が結合しています。そして、これらの因子は出番になるとmRNAに移動し、RNAポリメラーゼから出てきたmRNAを修飾していきます。図6は5’ キャップ形成に必要な因子がmRNAに移動し、5’ キャップを形成している場面を描いています。

以上のように真核生物のmRNAは、5’ キャップ、RNAスプライシング、3’ ポリアデニル化の3つの転写後修飾を受けます。修飾後はmRNAに複数のタンパク質が結合し、RNAとタンパク質の複合体となります。これらのタンパク質はそれぞれのRNA修飾がうまく完了したことを示す目印になったり、細胞質への輸送を示すシグナルになったりします。

こうしてできた成熟mRNAは核から細胞質に輸送され、タンパク質に翻訳されます。

非翻訳RNAの転写後修飾

ここまでは、特にmRNAの修飾について焦点を当てて解説してきました。実は非翻訳RNAが受ける転写後修飾はmRNAのとは少し異なります。

例えば、多くの非翻訳RNAは5’ キャップ形成や3’ ポリアデニル化が起こりません。大部分の非翻訳RNAはRNAポリメラーゼⅠまたはⅢによって転写されるのですが、RNAポリメラーゼⅠ、ⅢにはCTDがないためです。また、非翻訳RNAのRNAスプライシングはmRNAと比較してあまり起こりません。

他の例は、RNAポリメラーゼⅠから転写されるrRNAです。rRNAの一部のウリジンは、シュードウリジンに置き換えられます(図7)。この化学修飾はrRNAの機能や構造に必要であると考えられています。

増殖中にある細胞内の全RNAの割合は、rRNAが約80%、tRNAが約15%、mRNAが約5%です。以外とmRNAの相対的な存在量は少ないんですね!

RNA修飾と新型コロナウイルスのmRNAワクチン

mRNAワクチンが実用化されたのは最近ですが、その歴史は古く、アイデア自体は1980年代には考案されていました。

しかし、人工的に作られたmRNAは免疫原性が高く、過剰な免疫反応を惹起してしまったり、mRNAからのタンパク発現量が低かったりとワクチンとしての開発研究はなかなか進みませんでした。そんな中、現BioNTech社 カタリン・カリコ(Katalin Kariko)博士はmRNAワクチンに含まれるウリジンをシュードウリジンに置き換えることによって、免疫原性が低下することを見出しました。これはヒトrRNAは細菌と比較してシュードウリジンが多く含まれていることを利用しています。すなわちシュードウリジン修飾は、ワクチンのmRNAが細菌由来の害のあるRNAと細胞に勘違いされることを防いでいるわけです。また、この化学修飾によりmRNAワクチンからのタンパク質発現量も飛躍的に増加することも明らかになりました。このカリコ博士の研究結果はmRNAワクチンの実用化を大きく押し進めました。

今後起こりうるパンデミックや、他の感染症に対してもmRNAワクチンは人類の強力な武器となってくれることでしょう。

まとめ

  • mRNAの5’末端は 5’ キャップが形成される。
  • RNAスプライシングによりイントロンが除かれ、エキソンがつなぎ合わされる。
  • 選択的スプライシングにより一つのmRNAから複数のタンパク質を合成できる。
  • mRNAの3’末端はポリアデニル化される。
  • RNAポリメラーゼⅡのCTDに結合した転写後修飾因子によって、RNA修飾はmRNAの転写中に始まる。
  • ウリジンからシュードウリジンの化学修飾は、非翻訳RNAであるrRNAに多い。
  • 新型コロナウイルスのmRNAワクチンは、ウリジンをシュードウリジンに置き換えることによってワクチンの免疫原性を低下させている。
タイトルとURLをコピーしました