なぜ岡崎フラグメントが必要なのか?岡崎フラグメントについてわかりやすく解説!

遺伝学

はじめに

今回は岡崎フラグメントについて解説します。DNAポリメラーゼが5’から3’方向へしかDNAを合成できないために、DNA複製の際に岡崎フラグメントと呼ばれる短いDNA断片が作られます。

また、染色体はDNA複製のたびに短くなっていくのですが、これは岡崎フラグメントという合成方式をとっているために起こります。

岡崎フラグメントは、名古屋大学の岡崎令治教授が発見されました。ノーベル賞級の発見だったのですが、惜しくも病気で1975年に44歳の若さでお亡くなりになりました。ノーベル賞は故人に対しては贈られませんので。。。

日本人研究者が発見した素晴らしい研究成果についてみんなで楽しく学んでいきましょう!

記事のレベル

【難易度】★★☆☆☆

【重要度】★★★★★

※本記事はDNA複製機構の知識を必要とします。DNA複製の原理については以下の記事で解説していますので、合わせてご覧ください。

岡崎フラグメントが作られる理由

それでは岡崎フラグメントについて解説していきます。DNAは複製の際にDNAの二本鎖構造をほどきながらDNAを複製していきます。この複製時に現れるY字型の構造を複製フォークと呼びます(図1)。図1では複製フォークが左側に進んでいる場面を描いています。次に、図1のポリメラーゼの進行方向を確認してみてください。上側のDNA鎖は複製フォークの進行方向と同じ左側に、下側のDNA鎖は複製フォークの進行方向とは逆の右側に進んでいます。

複製フォークではDNAの伸長反応を行うDNAポリメラーゼやDNAの二本鎖を解くDNAヘリカーゼなどの酵素が集合し、大きなタンパク複合体を形成しています。したがって、実際は図2のようにDNAがうまいことくるっと回って、複製フォークと2つのポリメラーゼを含むDNA合成タンパク複合体は同じ方向に進んでいきます。

上側のDNA鎖のDNAポリメラーゼは5’→3’方向に途切れることなくDNAを末端まで合成できそうですよね。しかし、下側のDNA鎖のDNAポリメラーゼはどうでしょうか?このままでは新しく二本鎖DNAが解かれて、一本鎖DNAとなった部分が合成できなそうですよね。一体どうやって、この新しく露出した一本鎖DNAをを合成するのでしょうか?

答えは、「DNAポリメラーゼはこまめに後戻りしてDNAを合成する」です。DNAポリメラーゼは100~200塩基対程度のDNAの合成が完了すると、一度鋳型DNAから離れて新しく露出した鋳型鎖まで後戻りします。そしてそこから新しい二本鎖DNAを作り始めます。これを繰り返してDNAを合成していきます。こうして図2下側DNA鎖のように、複製フォークの進行方向とは逆方向に合成反応が進む新生DNA鎖は、短いDNA断片のつなぎ合わせになります。この短い断片が岡崎フラグメントです(図2)。

また、DNAの合成にはプライマーと呼ばれる短い一本鎖RNAが必須です。DNAポリメラーゼはプライマーなしで二本鎖DNAの合成を開始できないので、下側のDNA鎖ではDNAプライマーゼもこまめに後戻りしてRNAプライマーを作って、DNA合成の「きっかけ」を作っています。 複製フォークとポリメラーゼの進行方向が同じで、切れ目のない新生DNA鎖をリーディング鎖と呼び、複製フォークとポリメラーゼの進行方向が逆の新生DNA鎖はリーディング鎖よりもDNA合成が遅れるので、ラギング鎖と呼ばれます。

なぜ私たちの細胞は岡崎フラグメントをつなぎ合わせるという複雑な複製機構をしか持っていないのでしょうか?また、詳細は下記の記事で取り上げますが、岡崎フラグメントによるDNA複製ではDNA末端の合成ができず、細胞分裂の度に染色体が短くなっていきます。もし3’から5’方向にDNAを合成することのできるDNAポリメラーゼが存在していれば、岡崎フラグメントのような複雑な仕組みは必要ありません。DNA末端が複製できないという問題も起こりません。

ラギング鎖が岡崎フラグメントを作ってDNAを合成していく理由(=DNAポリメラーゼが5’→3’方向へしかDNAを合成しない理由)は、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を保持してDNA合成の正確性を維持するためだと考えられています。詳細な解説は以下の記事で取り上げていますので、ぜひご覧ください。

※以下の記事でDNAポリメラーゼが5’から3’方向へしかDNAを合成できない理由を詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

図2中では紙面の都合上、岡崎フラグメントの長さを10塩基対程度で描いていますが、真核生物の場合は100~200塩基対程度ああります。また、プライマーの長さも実際は10塩基対程度あります。

図3中では、複製起点から2つの複製フォークが出来上がっている様子を描いています。ラギング鎖上で岡崎フラグメントが合成される順番を赤矢印で示しているので、ぜひみなさんも紙とペンを持って、複製フォークがどのように複製されていくか、その順番を確認してみてください。

まとめ

  • ラギング鎖の短いDNA断片を岡崎フラグメントと呼ぶ。
  • ラギング鎖では岡崎フラグメントをつなぎ合わせることでDNA合成が進む。
  • 岡崎フラグメントを使ってDNA複製が行われる理由は、DNAポリメラーゼが5’から3’方向へしかDNAを合成することができないから。
  • DNAポリメラーゼが5’から3’方向へしかDNAを合成することがで着ない理由は、DNA合成の正確性を維持するため。
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