DNAとゲノム、染色体、遺伝子の違いとは?

遺伝学

はじめに

DNA、ゲノム、染色体、遺伝子、核酸など、生命の設計図を表す用語は複数あります。これらの用語は非常に重要なのですが、正しく理解して説明できる人は少ないのではないでしょうか?本記事ではこれらの違いだけでなく、混乱しやすい内容についても詳しく解説していきます。これらの知識は今後医学を学びたい人もそうでない人も必須の知識です!!

みんなで楽しく学んでいきましょう!

この記事のレベル

【難易度】★★☆☆☆

【重要度】★★★★★

ゲノム

※ DNAについては以下の記事をご参照ください

DNAの意味がわかれば、ゲノム、染色体、遺伝子を理解することは比較的簡単です。なぜなら、ゲノムも染色体も遺伝子もDNAでできているからです!

それではまずゲノムから解説していきます。ゲノムとはそれぞれの生命体が持つ遺伝情報の全てを指します。例えば、ヒトは一つの細胞の中に約60億塩基対のDNAが含まれています。DNAは以下のようにA、C、G、Tの文字列で表現することができますが、この文字列が60億個続いているのを想像してみてください。

5’-AGTCAGTCGAAAGTCAGTCGAAAT-3’

3’-TCAGTCAGCTTTCAGTCAGCTTTA-5’

この60億塩基の文字列がヒトの設計図の本体です。なのでヒトゲノムは60億塩基対である、、、と言いたいところなんですが、私たちは母親と父親からほぼ同じDNA配列を受け継いでいる二倍体と呼ばれる生物なので、ヒトゲノムは60億の半分の30億塩基対を指します(図1)。ゲノムサイズは生物よって大きく異なり、実験でよく使用されるマウスのゲノムサイズは約25億塩基対です。ヒトゲノムはマウスゲノムと比較して5億塩基対ほどサイズが小さいですね。

ヒトゲノムであれば、A、C、G、Tの文字列が30億並んだ配列全体を指しているわけですね。

同様に、マウスゲノムであれば、A、C、G、Tの文字列が25億並んだ配列全体を想像すればいいのですね。

ちなみに、私たちを構成する数十兆個の全ての細胞は全く同じゲノムを持っています。しかし、それらが心臓の細胞や、皮膚の細胞、脳の細胞などに専門家(=分化)していく過程で、ゲノム上の使われる領域(=遺伝子)が異なるために、多くの種類の細胞が出来上がる訳です。なので身体のどこの細胞を採取してもゲノムを調べることができます。

既にヒトゲノムは2003年に解読完了していますが、現代の科学技術ではその設計図を読んでもわからないところだらけです。ぜひ科学者になってその謎を解き明かしていきませんか!?

神経細胞と白血球など、細胞の形が大きく異なっていても、全ての細胞が持っている設計図(=ゲノム)は同じなんですね。1細胞さえあれば、理論的には体のどの部分の細胞を取ってきても、ゲノムを解読できますね。

染色体

続いて染色体です。

ヒトは60億塩基対のDNAが一つの細胞の中に入っているのですが、実は1本の長いDNA鎖が60億続いている訳ではありません。ヒトでは46本のDNA鎖に分かれて細胞の中に格納されています。この1本1本を染色体と言います。私たちは母親と父親から染色体を23本ずつ受け継いでいるので、合計46本の染色体を持っているということになります(図2)。46本の染色体のうち、22対44本は男女ともに共通で、常染色体と呼ばれます。残りの2本は女性はX染色体を2本、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持っており、X染色体とY染色体は性別の決定に重要な役割を持つので性染色体と呼ばれます。つまり、ヒトは常染色体22対44本と、性染色体2本の計46本の染色体を持っているということです。常染色体は大きさ順に1番染色体、2番染色体、、、のように22番染色体まで番号が振られています。ちなみにマウスの染色体は19対38本+性染色体2本の計40本です。

染色体をネットで画像検索すると、「X」のような形をした染色体が出てくることがあります(図3 ②)。私は最初学んだとき、「染色体は長い一本のDNA鎖のことなのに、何でXみたいな形なのか?」と混乱したので、説明しておきます。

細胞分裂時に染色体は複製されて1本が2本になります。ヒトであれば、染色体数は46本から92本になります。図3では、染色体を一本のみ描いていますが、本来46本あります。

この2倍になった染色体を2つの子孫細胞に確実に分配させる必要があるのですが、その時に間違いが起こらないよう2倍になった染色体は細胞が分裂する直前まで、真ん中でくっついているのです(図3 ②)。そのため染色体をネットで検索すると、分裂中である「X」形の染色体が出てくるのです。ではなぜわざわざ細胞分裂中の染色体像が説明に使われているのでしょうか?それは細胞の中に格納されている染色体は顕微鏡下でも観察することができないからです。しかし、細胞分裂の時にのみDNAが凝集して観察できるようになります。そのため、染色体が「X」形をしている像が撮影できます。ネットの検索結果には「X」形でないひも状の染色体像もたくさんhitします。それではひも状の染色体像は何で見えているのか?ということになりますが、ひも状の染色体も可視化できていることから、細胞分裂の段階にあると考えられます。

例えば、細胞分裂直後の染色体は分離しているけど、染色体の凝集はまだ観察できるような状態の細胞を使えばひも状の染色体を見つけることができそうですよね。

遺伝子

DNAは生命の設計図で、設計図のDNAをもとにしてタンパク質が作られます。60塩基対あるDNA配列のうち、タンパク質の設計図が記載されている領域を遺伝子と言います(図4)。遺伝子からタンパク質が作られる過程を、遺伝子発現と言います。例えば、「〇〇細胞では、A遺伝子が発現しているが、B遺伝子の発現は見られない。」というように使います。

それではゲノムに遺伝子はどのくらいの頻度で存在していると思いますか?遺伝子の長さですが、私の経験的に2000塩基対前後が多いと思います。また、ヒトの遺伝子の数は約2万個であると考えられています。これをもとに計算してみると、ヒトゲノムの遺伝子の割合はたったの1.3%となります(図5)。一般的に遺伝子の割合は1~2%だと言われているので大体合ってますね。

2000塩基対前後の長さの遺伝子が、ゲノム上の2万箇所に点在しているということですね。

同じような機能を持っている遺伝子が隣接しているというイメージは誤りで(細菌には当てはまります)、同じような機能を持つ遺伝子でもゲノム上に散らばっています。

ではそれ以外の98%は一体何を意味しているのでしょうか?これは完全には解明されていませんが、遺伝子から作られるタンパク質の量を調節したり、DNA複製開始点になったり、他にも重要な機能が備わっていることがわかってきました。しかし、この遺伝子以外の領域もわからないことが多く、研究のしがいがある領域と言えるでしょう。

まとめ

  • ゲノムとはそれぞれの生命体が持つ遺伝情報の全てのこと。
  • 染色体は長いDNA鎖のこと。ヒトは細胞中に染色体が46本存在する。
  • 遺伝子はゲノム上でタンパク質の設計図が記載されている領域。

※ DNAとにた分子にRNAがありまります。ぜひこちらの記事もご覧ください。

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