核内で染色体はどんな構造をしているのか?染色体の構造を詳しく解説!

遺伝学

はじめに

核の直径はわずか5~20μmであるのに対し、ヒトゲノムは約2mの長さがあります。したがって、DNAは核の中にかなり凝縮して存在しています。この時、DNAは無秩序に核内に詰め込まれている訳ではなく、一定の規則があり、非ランダムに格納されています。また、染色体の構造や核内での位置はダイナミックに変化します。

染色体構造の変化を頭の中で想像できるようになることで、他の領域の理解も深まります。なぜなら、本記事の内容は「iPS細胞」、「エピジェネティクス」、「三毛猫に雄がいない理由」などを理解する上でも重要な知識だからです!

核内の構造について想像しづらい部分もあるかとは思いますが、他の記事とも合わせてじっくりと読んで見てください!今回も楽しく学んでいきましょう!

エピジェネティクス

DNAの塩基配列の変化を伴わない、遺伝子発現調節機構のこと。例えば、ヒストン修飾やDNAのメチル化による遺伝子発現調節のこと。面白いことに、このようなエピジェネティックな情報は、DNA複製時に安定して娘細胞に引き継がれます。

この記事のレベル

【難易度】★★★☆☆

【重要度】★★★☆☆

染色体の構造

分裂期染色体の構造

DNAはヒストンというタンパク質に巻き付いて核内に収納されており、DNAとヒストンの複合体をクロマチンと言います(図1)。DNAが巻き付いたヒストン部分のことをヌクレオソームコア、ヌクレオソームコア間のDNAをリンカーDNAと言います(図1)。また、ヌクレオソームコアとリンカーDNAを合わせてヌクレオソームと言います。分裂期にある細胞の染色体は図1のようにクロマチンが高度に凝縮しています。この時のDNAの凝縮度は約1万倍にもなります1)

図1の上から3番目にあるクロマチン構造は30nm繊維と呼ばれ、染色体は図1のように30nm繊維が並んだ構造と考えられてきました。

これまで、染色体は図1のような規則正しい構造をしていると考えられ、多くの教科書にもそのように載っています。しかし、近年、染色体は「10nmほどのクロマチン繊維が不規則に折りたたまれた構造である」との実験結果が出始めており、クロマチン構造に関わる一般常識が変わりつつあります!!

したがって、図1は生物学的に正しくない可能性があり、注意が必要です。

間期染色体の構造

ここで注意してほしいことは、DNAがこれほどまでに均一に凝縮した状態になるのは分裂期のみであるということです(図2)。

分裂期以外の染色体(=間期染色体)は分裂期染色体と比較して凝縮度が低く、同じ染色体上であっても凝縮度はさまざまです。つまり、同じ染色体上に凝縮した領域もあれば、逆に凝縮していない領域(=脱凝縮)もあるということです。また、染色体上のDNA凝縮度はとても流動的で、細胞の分化過程や細胞周囲の栄養状態、ストレス応答などより、迅速に、そして大きく変化します。

それでは間期の染色体構造について詳しく見ていきましょう。

核内では、それぞれの染色体がそれぞれ特定の空間を占めています(図3)。このように各染色体が占めている空間のことを染色体テリトリー(chromosome territory ; CT)と言います2)染色体テリトリーは核内空間にランダムに存在しているのではなく、転写活性が高い染色体が核内の中心部に配置される傾向があります。 また、染色体テリトリー内部よりも、染色体テリトリー周縁部の方が転写活性が高いという傾向もあります。

そして各染色体テリトリー間には脂質二重膜に囲まれていない構造体が存在しています。このような膜を持たない構造体には、特定のDNA領域やタンパク質などの成分が濃縮されており、生化学反応の効率を高める機能があります。例えば、転写に必要なタンパク質が局所的に凝集して”転写ファクトリー”を形成し、転写反応が起きやすい領域が存在しています。転写ファクトリーの他にも、染色体テリトリー間には核小体、核スペックル、PMLボディー、カハール体、ポリコームボディーなどの核内構造体が存在しています。これらの構造体はいずれも膜を持っていませんが、明確な構造体として核内に存在しています。

上述した核内構造体の特徴については以下の表1にまとめました。

転写ファクトリーや核小体などの膜を持たない構造体の機能や形成・維持機構は、長らく謎に包まれていました。しかし近年、膜のない構造体が「相分離」と呼ばれる物理現象によって説明できることがわかってきました。相分離とは、水と油のように混ざり合わず、水中で油が液滴を形成するような現象のことを言います。

相分離は疾患との関連も大きく、近年の医学生物学のかなりHOTな研究領域です!

続いて、図3で図示した細胞の核を拡大して、染色体テリトリーと核内構造体の相互作用について見てみましょう(図4)。

一部のDNA領域が、染色体テリトリーからループ状に核内構造体へ突出しており、そこで様々な生化学反応が効率よく起こるような構造になっています。間期染色体の凝縮度が大きく変化するのと同様に、このような液滴形成もまた、環境因子などにより大きく変化します

染色体の凝縮度と遺伝子発現

これまで見てきたように、染色体の凝縮度はダイナミックに変化します。ここで非常に重要なことは、染色体の凝縮度は遺伝子の発現に大きな影響を与えるということです。なぜなら、転写や複製などのステップには多くの因子が必要なのですが、染色体が高度に凝縮している場合にはこれらの因子がDNAにアクセスできなくなってしまうからです。つまり、染色体の凝縮度が高い領域は転写が抑制されていて、逆に凝縮度が低い(=ゆるい)染色体領域では転写が活発に行われています。例えば、2.2.項で「転写活性が高い染色体が核内の中心部に配置される傾向があります」と記述しましたが、実際に中心部から遠い核膜付近では凝縮度の高いクロマチン構造が配置される傾向にあります。

染色体テリトリー中で活発に転写が行われている領域をAコンパートメント、転写が抑制されている領域をBコンパートメントと言います。A/Bコンパートメントは、TAD(Topologically Associating Domain)と呼ばれる約1Mbpの長さのドメインで構成されていると考えられています。

ここまで、染色体の構造を凝縮度が高い、低いと表現してきましたが、DNAの凝縮度が高い領域をヘテロクロマチン、凝縮度が低い領域をユーロクロマチンと言います。また、ヘテロクロマチンはその性質からさらに2種類に分けられます。一つは構成的ヘテロクロマチンと呼ばれ、常に凝縮した状態のヘテロクロマチンを指しています。もう一つは条件的ヘテロクロマチンと呼ばれ、発生や分化、環境因子に応じてヘテロクロマチン化するヘテロクロマチンを指しています。

まとめ

  • DNAはヒストンに巻き付いて、核内に非ランダムに格納されている。
  • DNAの凝縮度は流動的で、細胞分化や環境などにより大きく変化する。
  • 核内で各染色体が占めている空間のことを染色体テリトリーという。
  • 転写活性が高い染色体が核内の中心部に配置される。また、染色体テリトリー内部よりも周縁部の方が転写活性が高い。
  • 染色体の凝縮度は遺伝子の発現に大きな影響を与える。
  • DNAの凝縮度が高い領域をヘテロクロマチン、凝縮度が低い領域をユーロクロマチンという。
参考文献
  1. Jansen A, Verstrepen KJ. Nucleosome positioning in Saccharomyces cerevisiae. Microbiol Mol Biol Rev. 2011 Jun;75(2):301-20. doi: 10.1128/MMBR.00046-10. PMID: 21646431; PMCID: PMC3122627.
  2. Rajapakse I, Groudine M. On emerging nuclear order. J Cell Biol. 2011 Mar 7;192(5):711-21. doi: 10.1083/jcb.201010129. PMID: 21383074; PMCID: PMC3051810.
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